kidonoiさんが2016/09/29に投稿した翻訳記事『ノワールになるか、ならないか』は低品質な翻訳として2022/07/05に削除されました。
以下は低品質と見なした理由です。一部は、報告者であるC-Divesさんの報告を引用しています。
原文: Some time in the 1920s, almost a century before there were such things as Markov plot generators or infrafictional constructs, a dirt-broke novelist in the middle of L.A. somehow discovered the first known method of transport between various metafictional layers. We're still not entirely sure what he actually did with it in the first place and for almost all intents and purposes he shot himself into fictional space and fucked right off, but suffice it to say once they'd finished cleaning his corpse off the side of a printing office on the Hollywood Boulevard, more than a few people got interested in whatever method of narrativic ascension he'd unintentionally pioneered.
元訳: かつて1920年代、マルコフ・プロットジェネレーターや類似の構造物が現れるほぼ一世紀前に、L.A.の真ん中に1人の俗悪小説家がいました。如何なる方法によってか、彼は多様なメタフィクショナル・レイヤーの間を移動する最初の方法として知られているものを発見しました。彼が最初にそれを使って何をしたのか、何故ほぼ全ての意思と目的をフィクションの空間で自分自身を撃つことに費やしたのかは完全にはわかっていません。しかし、彼らがハリウッド大通りの印刷会社の脇から彼の死体を清掃したこと、彼がうかつにも先駆けとなった物語へのアセンションの方法に、少なくない人々が興味を持ったことは確かです。
問題点:
- “infrafictional”という造語を“類似の”と誤訳。
- “broke”は通常“金欠の/破産した”という意味合いの俗語。“俗悪”という現行の訳は合致しないように思われる。
- 慣用句“for all intents and purposes (事実上/どの点から見ても)”を直訳。
- “shot himself into fictional space(フィクションの空間に自分自身を撃ち込む)”という表現を“フィクションの空間で自分自身を撃つ”と誤訳。
- “fucked right off”の訳漏れ。
- “suffice it to say (~と言えば十分だ)”を“確かです”と誤訳。
拙訳: マルコフ・プロットジェネレーターや創作内構造なんてものが知られるようになる1世紀近く前の1920年代のある日、ロスのど真ん中に住む一文無しの小説家が、どういう訳か、様々なメタフィクション層間を移動する既知の最初の手段を発見した。奴がそもそもそれを使って実際に何をしたかはまだ完全には分かっていないし、ほぼ全ての観点から見て、奴は自分自身をフィクションの空間に発射し、とっととこの世をおさらばしてしまった。しかし、ハリウッド大通りの印刷所の脇から死体が片付けられた時、少なからぬ人々が、奴がそれと知らず先駆けとなった物語的次元上昇ナラティブ・アセンションの手段に関心を抱いたと言えば十分だろう。
原文: The kids from Prometheus were interested, because of course they were, and they'd managed to just about gut half of his manuscripts and the widget he'd used to punch himself into the metanarrative. That being said, even after they were done, there was still enough there for two groups to figure out how it worked and build their own separate copies of the machine in question. Those groups being a loose collective of private investigators and the Mafia.
元訳: プロメテウスからの子供たちはそれらに関心を持ち、彼の原稿の半分の本質と、彼が自分をメタ物語へと入力していた小型機械を管理しました。それらが成し遂げられた後ですら、仕組みを理解し、問題の小型機械の複製を別々に組み立てた2つのグループが現れるのに十分だったことを意味しています。それらのグループは私的な研究者とマフィアの緩やかな集団でした。
問題点:
- “プロメテウスからの子供たち”は科学組織の研究者を指すにしてはやや直訳すぎるように感じられる。
- “because of course they were”の訳抜け。
- “punch himself into(自分自身を~に殴りこむ)”を“自分を入力する”というのもまた、語り部の卑俗な物言いを十分に再現していないように感じられる。上記同様に、より砕けた表現が適切か。
- “That being said (そうは言うものの)”という慣用句を“意味しています”と誤訳。
- “private investigators (私立探偵)”を“私的な研究者”と直訳。この結果、Taleの根底にある“フィクションの世界で戦う探偵とマフィア”という設定が第5パラグラフまで明示されない。
拙訳: ご多分に漏れず、プロメテウスの連中は興味を持ち、奴の原稿のざっと半分と、奴が自分をメタ物語ナラティブにぶち込むのに使った小細工を入手した。とは言え、それが済んだ後ですら、2組のグループが仕組みを理解し、各々で問題の機械を複製するのに十分な手掛かりが残されていた。その2組のグループというのが、私立探偵どもの緩やかな同盟と、マフィアだった。
原文: The timeline's still pretty fuzzy, simply because of how much it jumps around between various layers of fiction and reality – that being said, we've pretty solidly established that the start of this whole debacle is in 1953, when the first shots got fired between the two groups and you have one P.I. dead and a Mob hitman apparently vanished into thin air.
元訳: 時系列は今でもかなりややこしいままです。何故なら、それはあまりにも多様なフィクションと現実のレイヤーの間を飛び回ったからです – それでも、私たちはこれ全体の瓦解の始まりが1953年、2つのグループの最初の銃撃戦だと確かに言えます。あなたは1人の要注意人物が死に、マフィアのヒットマンが明らかに空中に消えたことを知るでしょう。
問題点:
- この文脈での“debacle”は瓦解よりもむしろ、複雑化している現状を表すものと思われる。
- “private investigator (私立探偵)”を略したP.I.を“要注意人物”と誤訳。
- “into thin air(跡形も無く)”を“空中に”と誤訳。
- 原文には“あなたは~知るでしょう”という表現に対応する語句が無い。長文を2分割したことを考慮しても、やや不自然な呼びかけという印象を受ける。
拙訳: 奴らが多様なフィクション層と現実の間を行ったり来たりするせいで、時系列は未だにかなり曖昧だ — そうは言っても、この一連の大騒動の始まりが1953年、2組のグループ間で最初の発砲があり、1人の探偵が死に、マフィアのヒットマンが明らかに忽然と消失した時だというのはほぼ確定している。
原文: A few years after that particular confrontation, the other members of the P.I. collective disappear, one by one. At the time, nobody's quite sure how the hell what's happened to them and their bodies are never actually found: what they're very sure about is the very visceral deaths of multiple members of the mob. And then the rest of them disappear and it's all tied off very neatly, right before an explosion in the number of novels featuring battles between hardboiled detectives and the Mafia.
元訳: この特別な対決から数年で、集団の他の要注意人物は1人、また1人と消えていきました。当時、彼らに何が起こっているのか知る者はいません。彼らの体はそれから二度と確認されていないのです。そして、マフィアのメンバーの多くが本能的な死を迎えていることも明らかでした。そしてマフィアの残りが消え、集団が適切な連帯関係となったすぐ後に、ハードボイルドな探偵とマフィアの間の戦いを描いた多くの小説が爆発しました。
問題点:
- “private investigator (私立探偵)”を略したP.I.を“要注意人物”と誤訳。
- “visceral”には“本能的”という意味合いもあるが、この文脈ではマフィアの死にざまの惨さを表すものではないだろうか? この点は確信が持てず。
- “all tied off very neatly (直訳するなら“全てがとてもきれいに結ばれた”)”は、抗争関係にあった探偵とマフィアが全員姿を消し、一連の事件がひとまずの終わりを迎えたことを指すものと思われる。
- この文脈の“an explosion in the number of novels”は探偵小説の“爆発的な”増加を指す。現在の“爆発しました”という直訳からは実際に書籍が爆発したかのような印象を受ける。
拙訳: この特別な対決から数年後、探偵グループのメンバーは1人また1人と失踪していった。当時、そいつらの身に何が起きたかは誰もよく分かっておらず、死体も決して見つからなかった。はっきり分かっていたのは、マフィアの複数の構成員がかなり陰惨な死を迎えたことだ。そして残っていた連中も姿を消し、全てが綺麗さっぱり片付いたと思った途端に、ハードボイルドな探偵どもとマフィアの戦いを描いた小説がどっと世間に溢れかえったのさ。
原文: Like I said, pretty much everything after that point in time has dissolved into a sea of tenuous links and mostly ineffective theorising, but the main thrust of it is that we now have an array of detectives and wanted criminals duking it out over thousands (if not millions) of novels and decades of literary tradition.
元訳: 私が言ったように、その後全ては希薄な絆の海に溶け去りました。殆ど無駄な立論でしょうが、これの要旨は、私たちが今も探偵を配置し、何千もの(もし何百万ものでなかったら)小説と何十年もの文学的慣習において、犯罪に立ち向かうことを望んでいるということです。
問題点:
- 形容詞の“wanted(指名手配の~)”を動詞として“望んでいる”と誤訳した結果、それ以降の文意が完全に変化している。
拙訳: さっきも言ったが、それ以降のほぼ全ては希薄な接点と大して役に立たない理論の海に溶け込んでいる。要点は、探偵とお尋ね者の集団がいて、そいつらは何千冊もの (さもなければ何百万冊もの) 小説と何十年もの文学的慣習の中でひたすら殴り合っているということだ。
第六パラグラフ
Your job as a member of this particular division of the Department of Analytics is mainly going to be watching these novels. They tell me that the AIs are pretty good at filtering both by genre and by characters, so you're probably not going to be sorting through all that many truckloads of original fiction each day you're on the job.
分析部門のこの課のメンバーとしてのあなたの仕事は、これらの小説を監視することです。彼らは私に、AIがジャンルとキャラクターによるフィルタリングに優れていると教えてくれました。ですからおそらく、あなたは毎日何十冊ものオリジナルフィクションを振り分ける必要はないでしょう。
- particularが訳抜け。ここでは後の文章で仕事内容を説明しているあたり、詳細と訳すのが適切であると考えられる。
- truckloads ofが訳抜け。何十冊もと意訳されている可能性もあるが、元の比喩表現の意味合いを損なってしまっているように思える。ここでのoriginalは創作物に使われているあたり、独創的なと訳しても通じるかもしれない。
訳案: 分析部門のこの課の一員としての君の仕事の詳細は、これらの小説を監視することにある。彼らが言うには、AIがジャンルとキャラクターでフィルタリングするのに優れているから、君がトラック一台分になるくらいたくさんの独創的な作り話を振り分けなくともいいだろう。
第七パラグラフ
When you think you've got a lead, you'll fill in a form, boot it upstairs and if Command reckons it's worth investigating, a few Agents like myself will probably get sent off to interview the author, see whether or not they show any of the signs of metafictional fuckery with some basic MID-terms – Memory, Inspiration, Diction. If it turns out your tip was accurate, you'll soon find yourself chasing further fictional leads to ensure that we've got a comprehensive collection of their movements 'n' such.
手がかりを見つけたと思った時は、用紙に記入し、階上でそれを提出してください。もし司令が価値ある発見だと見なしたならば、私のような数人のエージェントが著者へインタビューをするでしょう。いくつかの基礎MID用語 - 記憶、インスピレーション、言い回しから、メタフィクショナルな存在の痕跡が見つかるかどうかを確認するためです。もしあなたの警告が正確であったなら、私たちが広範囲な彼らの活動を記録できるように、さらなるフィクションの手がかりを追い求めている自分にあなたは気付くでしょう。
- ここでのupstairsの意味は上の階ではなく上層部であると考えられる。
- send offが訳に反映されていないように思える。意訳するうえで日本語として自然な文章にするために意味を切り落とした可能性もある。
- whether or not がwhetherの意味で訳出されているように思える。
- turns outが訳抜けしている。
- find youeselfが誤訳されており、最後の一文が日本語として不自然になっている。
- 'n' suchが訳抜けしているように思える。
訳案: 手がかりを発見したと判断した場合はフォームに記入し、上層部へそれを提出してくれ。司令が調査する価値のあるものだと判断すれば、俺みたいな数人のエージェントがインタビューのために著者のもとへ送り込まれる。バカげたメタ・フィクションの痕跡があるかどうかに関わらず、基礎的なMID用語(記憶、発想、語調)で確認する。仮に君の情報が正確だと判明すれば、君も我々がこういう彼らの広い範囲での活動を確実に得られるようにさらなる創作物の手がかりを追っているとすぐに分かるだろう。「n」のようなね。
第九パラグラフ
In a metafictional fight like this, you're not going to be settling the feud over a nice dinner at an Italian restaurant. No, the only way to settle this kind of dispute is with good old-fashioned murder, but that gets pretty complicated when you're trying to murder a fictional character. Authors can pull plot twists out their ass to save any character, especially ones as well-loved as these guys seem to be, and if their reader base suffers, it doesn't matter – so long as they're alive and able to fight the other side, they're not going to give a rat's ass about the authors they have to manipulate to stay that way.
このようなメタフィクショナルな戦いにおいて、あなたはイタリアンレストランでの素敵な夕食で争いを解決しようとはしません。ええ、この種の争いを解決するたった1つの方法は、古き良き殺人によってのみです。ですが、あなたがフィクションのキャラクターを殺そうとするとき、物事は少し複雑になります。著者はちょっとプロットをひねるだけで、如何なるキャラクターをも保護出来るのです、とりわけそれが最愛のものである場合は。読者がどんなに苦しもうが、それは問題ではありません – 彼らが生存していて別の場所で戦いさえすれば、読者はそうしなければならなかった著者にねずみをけしかけたりしないでしょう。
- not a rat's assの意味をとれておらず、不自然な表現となっている。
訳案 こういうメタ・フィクションの戦いにおいて、君はこういう軋轢をイタリアンレストランでの優雅なディナーで解決しようとはしないだろう。この種の抗争を解決する唯一の方法は古き良き殺人者だが、君がフィクションのキャラクターを殺害しようって時にはかなりややこしいことになる。著者はキャラクターを守ろうと全力を尽くしてプロットを用意してくるし、作者のお気に入りのヤツに対しては特にそうさ。そのうえ基本的に読者がどんなに嫌な思いになろうとそれは問題にはならない。彼らが生きてて、別世界で戦っている限りは著者が彼らを操作して支えていないといけなかったとしても気にも留めないのさ。
第十パラグラフ
Clearly, you can't kill a fictional character in fiction. So you have to lure them out into reality and then kill them, before finishing off any potential authors who might want to bring them back. We've had reports of authors who've been literally taken hostage and forced to write out the adventures of the kidnapper's comrade at gunpoint, and good old Kurt Vonnegut had to have a covert security detail monitoring him simply because of the possibility of metaphysical infiltration of his work.
明らかに、あなたはフィクションの中でフィクションのキャラクターを殺せません。だからあなたは彼らを現実へとおびき出し、それから殺すのです。彼らを引き戻したがっている潜在的な著者たちにそうされてしまう前に。私たちは文字通り人質となって、銃口の先で誘拐犯の仲間の冒険を書かされている著者たちのリストを持っています。あの古き良きカート・ガヴォネットも、作品へのメタフィジカルな潜入の可能性から、自身を詳しく監視する秘密のセキュリティをもたねばなりませんでした。
- ここにおけるpotentialは潜在的な可能性を持ったという意味でつかわれていると考えられ、潜在的なのみだと日本語として不自然。
- finishing offが訳抜けしている。
- write outのニュアンスを含めて訳せていない。
- Vonnegutはヴォネガットとカナ転写されることが多く、この人物のwikipediaでもそのようにされている。
訳案 君はフィクションの世界でフィクションのキャラクターを殺せないのは分かりきっている。だから君は何らかの潜在的な力のある著者が彼らを連れ戻して終わりにしてしまう前に、現実世界に誘いだしてから殺さないといけない。我々は文字通り奴らの人質となり、銃口を向けられて誘拐犯の仲間たちの冒険譚を強制的に完成まで書かされている著者についての記録もある。それにあの古き良きカート・ヴォネガットですら作品にメタ・フィジカルが浸入する可能性があったから、自身の詳細を監視する極秘のセキュリティを持たねばならなかった。
第十一パラグラフ
Which brings me to this thing right here on the table. The last "re-entry" into reality these guys made, an entire hectare of land got levelled within the first fifteen minutes of the fight, and at least half of it was thanks to this thing right here.
テーブルのここに、私をこれへと導いたものが載っています。これらの男たちによる現実への最新の"再突入"では、戦闘の最初の15分で丸々1ヘクタールの土地が破壊され、最終的には被害の半分がここにあるもののせいでした。
- at leastが訳抜けしている。
訳案 テーブルのちょうどここに、俺をここへと導いたものがある。奴らが一番最近行った現実世界への"再突入"では戦闘開始から15分で1ヘクタールの土地全てが破壊された上に、少なくとも被害の半分はちょうどここにあるもののせいだ。
第十四パラグラフ
No pressure.
そう緊張しないでください。
- no pressureは無理しないでなどの励ましのニュアンスで利用される会話表現であり、緊張しないでと伝えたい場合、don't be nervousなどという方が適切であるため、原文のニュアンスとずれていると考えられる。
訳案 まあ、無理はしないでくれ。