[ここはインターネットの場末にある怪奇創作サイト、さらにその場末のバー、スピニング・アイサイト。今日も疲れ果てた著者がやって来たみたいです。]
ケーカル: こんばんは~大将、やってますか?
くど: おーキャベツくんじゃないかい!
ケーカル: そこにいるのはもしかして、超有名著者のメシオチさんじゃないですか!
メシオチ: あ~……なるべく死ねるような酒を一杯いただけると。
ケーカル: 蜂蜜漬けの蒼月とかね。
くど: ほら、立ち話もなんだから、とりあえず座りなよ。
ケーカル: そうですね、それじゃ失礼します。あ、僕にもメシオチさんと同じのを一杯お願いします。
[二人は差し出されたグラスを呷り、深く息を吐き出す。]
ケーカル: いや~Xコンお疲れさまでしたホントに。
メシオチ: そうか、この三人はみんな出てるんだ。
くど: 長かったですね~。
メシオチ: 長く苦しい戦いだった。
ケーカル: 僕今回キャラTaleに挑戦したんですけど、コレかなり難しいな~と思って。それで相談に乗って欲しいんで、キャラを肴に一杯やりましょう。
メシオチ: キャラを肴にね。
ケーカル: ……はい。これで完全で完璧な導入が終わりました。
メシオチ: くだらねえ茶番だったよ!
通行人: RPでしょっ引かれないか?
通行人: バーなのに大将なのはおかしいだろ!
ケーカル: というわけで、ここからキャラ対談を始めたいと思います!
メシオチ: 大将、よろしくお願いします。
対談の目的
ケーカル: じゃあまずは、なんでこの対談をやろうかと思ったかってところなんですけど。キャラTale書いてみて大変だったからアドバイスが欲しいっていうのと、キャラが人気になったら、界隈全体が活気づくんじゃね?ということを最近考えていて。
メシオチ: キャラがあったらもっとやれることもありますよね。
くど: でも一時期はかなり盛り上がってましたよね。IDコンのときとか。
メシオチ: 納涼祭でMVPを取った人にいわれるとぐうの音も出ませんが。
くど: ただそこから一回落ち着いたってことですよね?
ケーカル: そうですね。そんな感じはします。まあ僕IDコンのとき死んでたんですけど。
くど: IDコン出られなかったのが本当に辛いな。チームコンで完全燃焼した勢があまりに多かった。
メシオチ: もったいなかったって思いますよね。せっかくチームコン、納涼祭で人事が盛り上がったのに。
くど: というわけで、IDコン2をやりましょう。
ケーカル: え、もう今日の対談の結論出ましたか!? でもジョン・ドゥコン予定されてませんでしたっけ?
メシオチ: ジョン・ドゥとはまた別にやろうってことで。無名職員もいいんですけど、やっぱりシェアワールド的にみんなで同じ職員を使うとか、既存の職員を使うってのもやりたいじゃないですか。
ケーカル: 確かに、まさにその点が今回の対談の主題でもありますよね。単に質のいいキャラTaleを作る、というより、「みんなでキャラをどうシェアしていくか?」「シェアされるキャラはどう作ればいいか?」。
くど: シェアされる前提のキャラクターというと、いわゆる著者ページに記載されている人事だとか、複数作品に登場しているキャラクター。そういうキャラクターに関するTaleの書き方ですね。
メシオチ: いわゆる物語の中でたまたま出てきたようなキャラではなく、今後自分とか他人が使うことを見据えたキャラクターってことですね。キャラクターとして作られたキャラクターというか。
ケーカル: そうですね。今回はそういうところにフォーカスアップしていけたらと思っています。
シェアされるキャラクターの条件とは
メシオチ: 僕、自分がカノンだったり連作だったりで、他人のキャラを使ったりしてきたからこそ思うのは、やっぱり色んなキャラを広めたいなって。そのためには他の人につかってもらう必要があるじゃないですか。でも現状、そんなにみんなに使われてるキャラって多くない。もちろんタグ化されてるキャラも結構いるんだけど、それ以上に広まってるキャラってあんまりいない気がするんですよね。昔からいるからみんな知ってる、ってキャラはいるけど。
ケーカル: 確かに僕が入ったころは人事ファイルの数も少なかったから、当然全ての人事ファイル読んでるし、そこに載ってるキャラも知ってるでしょって。でも今はそういうわけにもいかないですからね。
くど: 一部の方はやってますけどね。マジでヤバい。
ケーカル: それは本当にすごい人ですから笑
くど: 確かに昔のTaleは、キャラの名前さえ出せばわかるって作品が多かったかも。
ケーカル: もう人事が教養と化していましたね。その教養がいらない、というか教養が教養でなくなった世界で、どういうキャラを作れば広めていけるのかって話ですね。
くど: これは身も蓋もないことを言うと、自分自身が使いたいと思えるくらい魅力的なキャラにするのが前提ですよね。
メシオチ: マジで身も蓋もないな!
ケーカル: じゃあどう魅力的にしていくかが問題ですね。
くど: 一つはめちゃくちゃ詳細な描写をせずともわかるような、一般的な、見えやすい特技であったり、強み、外見的特徴を持たせてあげる。それこそ五行あれば、名前を出さずとも描写だけで「あのキャラじゃん」って特定できるくらいの。キャラ立ち。
ケーカル: そのキャラだってすぐわかる特徴……例えば腕が伸びたらルフィ、三刀流ならゾロみたいな。
メシオチ: ビジュアル大事ですもんね。
ケーカル: ビジュアルというと、我々は一つ思いつくのがありますね。目の色で。
熱心なファン: 今、榛色の瞳の話をしましたか?
ケーカル: まあこれは我々がみんな同じTaleを読んでるから教養化しやすいという側面が強い気がしますけど笑
[笑い声を切り裂くように、けたたましい音を立てて扉が開く]
のってぃ: すでに動かされているキャラは、書きやすい。
ケーカル: 急に来たな。
のってぃ: 当時まだTaleのなかったキャラを題材にしたTaleを二本執筆した経験があるんですけど、片方に至ってはキャラ考案者本人に「書きたいから動かした例をちょうだいよ」ってお願いしました。じゃないと書けないから。
ケーカル: 確かに、著者ページにリスト化された情報だけじゃなくて、セリフとかも載っていると書きやすくなるかも。
のってぃ: だから、挨拶回りがあるとかなり書くハードルが下がると思っていて。
一同: あ~~~~~~~~~~
のってぃ: 「そのキャラが想定外の状況に陥ったときどういうリアクションを取るのか」ってのが見たいのと、「このキャラが背負ってる物語は何か」、あとは言葉遣いですね。目上目下、敵対者とか味方とどう話すのか。そういうのがわかりやすいのは、人事ファイルの情報ってより、挨拶回りですね。
メシオチ: あとTaleは欲しいですね。
のってぃ: 正直自分で一本最初にTaleを書いておいてもらえるとかなり書くハードルは下がるよね、というのはあります。
くど: これ私は真逆のことを思っていて。
ケーカル: え!?
くど: きちんとした設定の羅列があればそこから全部自分で作れるので。どっちかっていうと動かした実例より人事ファイルの情報がありがたい。
ケーカル: うお! いわゆる「幻覚派」だ!
通行人: あ~私もそのタイプですね。
くど: もちろん、動かした実例があった方がやりやすいのはそうなんですけどね。
ケーカル: 確かに、情報の抽象度と密度でいったらリスト化されていた方が高いですからね。あれ? でものってぃさんも、さっき挙がった人事の片方は著者ページの情報だけから書いたんですよね?
のってぃ: 角宇野さんは、著者ページのメモとかに思考とか言葉遣いが書いてあったので。
メシオチ: 確かにあの著者ページは結構Tale的かも。
のってぃ: 特に一人称とか、言葉遣いは、間違うとかなり原著者から解釈違いがでちゃうので、書いてあってありがたかったですね。
ケーカル: なるほど~。なんか、今の話を聞く限り、どっちサイドも「キャラのイメージ」を頭に描いてから書くのは同じで、その経路が違うのかもしれないのを感じてて。
通行人: そうですね。キャラを頭の中に持つというか、キャラの解釈を持つ。
ケーカル: 具体化された順に、作品の中での動き、キャラのイメージ、リスト化された設定って風に並べると、のってぃさんは具体的な行動を抽象化してキャラ観を作るのが得意で、くどさんは抽象的なものをやや統合・具体化してキャラ観を導き出すのが得意なのかもしれないですね。最終的には導かれたキャラ観から作品内での行動が出力されるわけですが。
メシオチ: キャラ観を先に構築するって話だと。頭の中でキャラが勝手に動くとはよく言いますけど、動かないやつもいませんか?
くど: え、そもそも頭の中でキャラが勝手に動くことってあります?
ケーカル: あれ、一番くどさんが言いそうなことだと思ってましたけど。「頭の中でキャラが勝手に動く」。
くど: いや~そんなことないですねぇ……
メシオチ: じゃあ殴り合うんですけど。物語的にはこう動かしたいけど、キャラ的には違和感があってそう動かせないみたいなことありませんか? そういう違和感とかの積み上げが、キャラ観に響いてくるなって感じがしてて。
ケーカル: ここで敵役殺してほしくないけど、こいつだったら絶対とどめ差しに行くよね、みたいな。
のってぃ: TRPGの依頼受ける受けない問題みたいな。
メシオチ: その言語化しにくい、肌感覚のことを「キャラが動く」っていうと思ってますね。
くど: あ、いやでもそれは全然ある。プロットが破壊される瞬間とか。
ケーカル: 長編対談で聞いたことあるやつだ!
くど: ここでこのキャラにこの行動をさせる予定だったんだけど、いざ書き始めてみたらどうしても違和感が拭い切れなくて、じゃあしょうがないから展開の方を変えるかってことはいくらでもある。
ケーカル: それってやっぱ人事ファイルにある客観的な情報と齟齬が起きるってことですか? 芋嫌いって書いてあるのに、喜びながら芋を食べるシーン作っちゃったみたいな。
くど: いやどっちかっていうとメシオチさんが言ってたような、主観的なものですね。読者としての自分が納得できるかどうか。
ケーカル: それはくどさん的には「キャラが動く」とは言わない?
くど: そうですね。そこはあくまでキャラの自主性というより、俺が納得するかしないかなので。
ケーカル: なるほど。言葉の定義が違う感じですね。
メシオチ: で、キャラ観の話に戻しますね。その肌感覚とかキャラ観は滅茶苦茶主観的だから、人によって違う。特に行動理念とかがなんか違うな~ってなることがあって、そのせいで動かしにくくなってるところもあるかもしれない。
ケーカル: 例えば?
メシオチ: ダウナーな桃太郎ってのがいるとするじゃないですか。
ケーカル: ダウナーな桃太郎!?
メシオチ: ダウナーな桃太郎が仲間を集めるってシーンがあったとしたら、僕は違和感がある。解釈違いなんですよね。
ケーカル: ダウナーだからってことですか?
くど: きび団子食べたらハイになったのかもしれないですよ。
メシオチ: ハイの可能性はおいておいて、特に犬とか絶対仲間にしないです。
ケーカル: でも桃太郎ですから、仲間は集めるんじゃ?
メシオチ: そこですね。ケーカルさんみたいに、「桃太郎」の要素を重視して仲間を集めるだろうって解釈する人もいるし、僕みたいに「ダウナー」を重視して仲間を集めないと解釈する人もいると思うんです。
ケーカル: そこで解釈違いが起こるんだ。ダウナー桃太郎人事を使おうと思って、既存作を読んでみたら仲間集めてて、なんか違くね?ってなる。
メシオチ: それでそのキャラを使うのをやめちゃう。そういうことがたまにあるんですよね。そういう解釈違いって仕方ないと思っているんですが、なるべく起きないようにもしたいとも思ってテェ……
くど: そこで解釈バトルするのが楽しんじゃないですか?
ケーカル: バーバリアンおる!
くど: だってそんなこと言ってたら二次創作なんてやってらんないでしょ。
のってぃ: 実際ジャック・ブライト級になるとそれは通るんですよね。あいつ口調も統一されてないし。
メシオチ: でもこれからどんどん開拓されていくようなキャラに、自分が尖った思想をぶつけていいのかどうかって恐怖はありますよね。
くど: キャラ解釈合わないならDVすればいいだけでは?
ケーカル: くどさんの仮面のお茶会読んでビックリしましたもん。四宮のキャラがMr.スパイと全然違って。
くど: あれは四宮が動揺してるからちょっと変になってるのと、あと一応原作者の査読は通ってるんですよ! ただもう様々な筋から言われてるので、ちょっとカラテが足りなかったところもあるのかな、とは思ってます。
ケーカル: でも確かに原作者に話を聞くのはありなのかもしれないですよね。くどさんのケースとはちょっと違いますけど、「人事ファイルの情報からこういう解釈になったんでこういう風に行動させようと思うんですが、大丈夫ですかね?(既存Taleとは食い違うかもしれないけど)」みたいな。
メシオチ: 実際それをやるのは大変だけど、仲いいならできるかも。
くど: 実際納涼祭のときは色んな著者に連絡取りまくりましたもん。爆笑されたりしました。
メシオチ: そう、納涼祭。僕が広域怪異収容事例を諦め続けてるのは、この違和感のせいなんですよね。あんなにたくさんのキャラ動かしたら、絶対どっかで何かしらの既存作との齟齬は生まれちゃう。
ケーカル: そのときは、もちろん原著者へのリスペクトはあるという前提で、バトルしていく、もしくはバトルとまで行かなくても新解釈を呈示していくのはありなのかもしれないですね。そこがシェアワールドのいいところでもあるし。
メシオチ: 色んな面から掘り下げることでキャラが深まっていくという側面もありますもんね。
のってぃ: あとは、完全に止まってるキャラ、書き手がもういないだろうキャラについては、あんまりバトルとかは気にしなくてもいいかも。
ケーカル: まあ気にする人がいないわけですし。なんか著者との解釈違いを防ぐみたいな話になってますけど、極論「上手く人間関係を構築しようね」って話になりませんか?
くど: んーただねえ、散々許可取ってるって話をしたあとに正反対のことをいいますけど、CCで公開している以上意図していない使い方をされるのは織り込まれるべきリスクなんでしょうね。
ケーカル: シェアワールドだし、Voteもあるんだから、僕はぶっちゃけ相談なんてしなくていいと思ってますよ。
くど: 反論があるなら解釈パワーがより強い作品を自分で書けばいいですしね。
メシオチ: 僕はその理屈もわかるんで、だからこそさっきののってぃさんの話とは逆になりますけど、作品数がたくさん書かれるだろうキャラの方がやりたいことができる。これから書かれる予定のないキャラって、自分の解釈に殴り返してくれる人がいないから。一方的に殴ることになっちゃう。
ケーカル: あとは、そのキャラの初めての作品に強い思想をぶち込むのと、すでに5万作くらいあるブライトの作品の中に強い思想をぶち込むのじゃ、全然影響力が違いますもんね。
メシオチ: そう。怖い話。
ケーカル: 何か段々話がズレてきたのでまとめると、解釈違いを起こしそうなときも、シェアワールドなんで基本的には勝手に書いても全然OK。でもできるなら有識者に相談しておくと、まあ色々お得なことはあるかもってことですね笑
ケーカル: じゃあちょっと話を戻しましょう。この話は元々、キャラのイメージがあっても動かせないとか、情報があってもイメージがわかない、みたいな話でしたよね。
メシオチ: そうですね。
ケーカル: もうちょっとそこについて深めたくて。くどさんは「著者ぺに情報は載ってるんだけどあんまりこのキャラ動かせないんだよな」って感じた経験ありますか?
くど: 角宇野さん。
ケーカル: へ~、意外ですね。のってぃさんと真逆というか。
くど: 確かに情報はちゃんと載ってるんですけど、あそこから新しい物語を作れないというか、なんというか──あれはHasuma_Sさんの世界だなって思って。
ケーカル: なるほど。確かに世界観って言葉が出てきましたけど、自分の頭のなかにあるキャラクターのバリエーションみたいな、語彙みたいなものが違う人のキャラは動かしにくいかもしれませんね。
のってぃ: 動かしやすいキャラクターって、どういう人に動かされたいのかが最初にあると思うんですよ。
ケーカル: あーーー……え?
のってぃ: わかりやすく言い換えると──
メシオチ: あの、当てていいですか?
のってぃ: え、いいですけど。
メシオチ: [ちょっと下ネタ]の話ですよね?
くど: ……
ケーカル: ……
のってぃ: 何?
メシオチ: 違った。
ケーカル: ここ絶対使います。
のってぃ: 話を戻すと、わかりやすいヘキに刺さるようなキャラを作るってことですね。記号的、アーキタイプ的ともいえますが。
ケーカル: 対談に載せられるものでいうと、イケおじとか、姉御キャラとかっていうとわかりやすいですかね。
のってぃ: そういう表面的には記号的なキャラクターを深めていくのは楽しいですし。
ケーカル: なるほど。確かに納得しました。キャラのイメージを構成するときに、著者ページや既存作にある情報はどうやっても限られてきますよね。我々はそれを、一種のスキーマ──その人の中にある「こういうキャラはこういうことをする」という知識で無意識に補いながらイメージを構成するわけです。それこそ、イケおじスキーマとか、姉御キャラスキーマとか。そして、どんなスキーマを持っているかは人それぞれ違う。逆に、誰もスキーマを持っていないようなキャラだと、書いてもらえない。
メシオチ: あ~、ジャンル的なキャラは確かにいますね。
ケーカル: そういうときに、性癖や特定のジャンルを狙うのは確かに効率がいいですね。例えばイケおじ好きな人は、イケおじがたくさん出てくる作品を恐らくたくさん摂取しているわけで、「そういうタイプのキャラ」のスキーマを持っているはず。敢えてある程度キャラを型に当てはめに行くことで、みんなが動かしやすいキャラになると。
[軽快なベルの音が響いて、熱の籠った室内に涼し気な夜風が流れ込む。激論を交わしていた著者達が、一斉に扉の方に目を向ける]
じらく: スシブレードとか、そんな感じで滅茶苦茶キャラ増えましたもんね。
しおのめ: そうですね~私もそうだと思います。
ケーカル: じらくさん!? しおのめさん!? スシブレード!?
Jiraku_Mogana氏(以下じらく)
IDコンではA部門・D部門で同時優勝という華々しい経歴を持つ。コミカルからシリアスまで幅広く手掛ける技術を持ち、様々なシリーズにも積極的に貢献するシェアワールドの立役者。
shionome4ono氏(以下しおのめ)
本対談が行われているDiscordサーバーの管理者。読者として様々な幻覚を生み出すことでも知られる。財団内での代表作は隣に立つだけで足りる。
しおのめ: 幻覚が広まるときって、みんな共通の下地があるときなんですよ。
ケーカル: あ、そうなんですね。Xで幻覚が生まれるのを見る機会が最近あったんですが、みんなそれぞれで勝手に考えてるのに、なんで解釈違いもあんまり起こらず、共通したイメージになるのかが不思議に思ってたんです。そうか、共通の下地があって、同じようなスキーマを適用しているんだ。
しおのめ: そうです。ない幻覚を炊くときは、もともとしっかりした下地が必要なんですよ。スシブレの場合はそれがホビアニって下地があって、
メシオチ: なんとなく胡散臭い博士キャラ、みたいなね。
しおのめ: 瓶底眼鏡でチャキーンとしているキャラクターが出てきたら、ちょっと抜けたところがあって、みたいな。そういう共通イメージってありますよね。
ケーカル: あ~あるある。
しおのめ: さっき話に出てた、情報を拾ってきてキャラの幻覚を炊いていく人たちっていうのは、そういう下地が滅茶苦茶に幅広いのではないか、っていうのがありますね。
ケーカル: ちなみにそういう、下地をもとに作られたのがわかりやすいキャラってスシブレにいるんですか?
しおのめ: データキャラがいますよ。
メシオチ: ウィークですかね。
ケーカル: ウィーク……四包丁しほうちょうですか?
じらく: 四包丁よんほうちょうです。
ケーカル: え、ごめんなさい。
メシオチ: 何包丁でしたっけ。
じらく: 出刃包丁ですね。
くど: 出刃包丁のウィークだ。データキャラです。
ケーカル: へー、そういうのがいるんですね。やっぱホビアニって下地が、こんなキャラいるかも、こんなキャラいるかもっていう幻覚を育てて、そしてそういう下地の上にできたキャラは、みんなが動かしやすいキャラクターになると。なんかスシブレがあんなに流行った理由の一つが期せずして明らかになりましたね。
ケーカル: じゃあここまでの話をちょっとまとめましょう。オリジナリティのあるキャラを作りたいときって、オリジナリティ、オリジナリティ、オリジナリティって全部の要素を変にしようとしてしまう。でもそれだと動かしにくくなってしまうから、逆に、アーキタイプ的なものに寄せていくのも重要だよねってことですね。
しおのめ: うん、うん。
くど: 序盤に話したキャラ立ちの話も、この記号化みたいな話と関連していて。
ケーカル: あれはそのキャラだと一目でわかるような特徴をつけようってことでしたよね。
くど: そうですそうです。それについても、独自のものだけじゃなくて、キャラクターのジャンルを象徴するようなものを身につけたり、そういう行動をさせてあげると、記号化されて読者がそのキャラを理解しやすくなりますよね。
ケーカル: 瓶底眼鏡だったり、腹減ったーって言わせてみたり。
くど: そこから入ってもらって、あとは内面描写とかで独自化していってあげる。
ケーカル: 入りからオリジナルすぎると壁が高すぎるから、敢えて一見して分かる要素にはわかりやすい記号的なものを用意してあげるってことですね。
のってぃ: でも角宇野さんってそんなに記号的じゃない気がする。
ケーカル: ここでいう記号っていうのにはあんまり悪い意味はなくて、さっきのスキーマの話に近いですね。テンプレでつまらないって意味じゃなくて、何かしらのスキーマを活性化させる要素を持っている。そのスキーマがどれくらい共有されているもので、どれだけ意識的にテンプレ化されたものかは違うけど。
くど: 決まりきったお決まりのつまらない紋切り型、じゃなくて、人が読んだときにイメージのとっかかりになるような要素みたいな意味ですね。
のってぃ: そういわれてみると、確かに個人的に角宇野さんに当てはまるスキーマは持っていたかもしれないですね。
ケーカル: これがある意味メシオチさんの問いへの答えになってるかもしれないですね。動かしにくいキャラっていうのは、そういう記号的な要素が足りないのかもしれない。
メシオチ: 仮に記号的なものがあっても、趣味に合わなかったり、書くのが難しいものだとあんま書く気にならないっすね。
のってぃ: 財団の設定として使いにくいジャンルってのはありますからね。
ケーカル: いくら記号的とはいっても、財団のリアリティラインを満たさない……例えば子供っぽすぎるとか、おふざけが過ぎると捉えられちゃうような場合は使いにくいかもしれないですね。あと、記号的すぎてもオリジナリティなくて困りませんか?
くど: そういうものを掘り下げて深みを与えていくのは、ある意味人事Taleの醍醐味ですけどね。
ケーカル: とはいえやっぱりオリジナリティは欲しいと思うんで、どういう塩梅が良いんだろう。
のってぃ: 行動原理、性格、職務、この三つのうち、少なくとも一つはアーキタイプ的なもの、わかりやすいものにして欲しいですね。
くど: それぞれ具体例を出すとどうなります?
のってぃ: 行動原理は、何を大事にしていて、何をされると怒るのかとかですね。前に進み続けるとか。性格は、ダウナーとかハイテンションとか協調性がないとか。一言で表せないときはちゃんと行動とかで描写して欲しい。職務は、そのまんまです。エージェントとか。
くど: 拷問官とか。
メシオチ: 職業は変でもいい気がするんですけど。
のってぃ: 例えば職務が変でもいいんですけど、その場合は残り二つが書いてなかったり、わかりにくかったり、アーキタイプから外れすぎていると書きにくい気がしますね。あと他には、役割が明確だと書きやすいです。
ケーカル: 役割って言うと、「鍵を開けられる」とかですか?
のってぃ: どっちかっていうと、先輩や後輩、導く側、導かれる側とか。あとは急に哲学的なことを言えますよとかって感じですね。
くど: 暴れ能力の高さみたいな。
ケーカル: あー、なるほど。作劇場の特定の型で、一種テンプレ的に必要になる「機能」的なものの話ですか。例えばスピードワゴンみたいな解説キャラとか、バトルものの師匠キャラとか、事件を起こすキャラとか。
のってぃ: そういうことですね。
ケーカル: で、僕の言った能力は、あんまり作劇とか関係なく単純に「そのキャラができること」ですね。銃の扱いが上手いとか、鍵が開けられるとか、パズルが得意とか。
のってぃ: 役割を人事ファイルに明示する必要はないと思うんですが、ちゃんと役割を意識して作ると使いやすいキャラができると思います。
ケーカル: 能力についても、ちゃんと使いやすさを意識して設定しておいてくれると、どういう場面で使えるかがわかりやすくて使いやすくなりますね。「ここでカギあけてくれる人が必要だな~そうだ、あのキャラ使おう!」みたいな。
のってぃ: ただ、能力が高すぎるキャラは使いにくいです。一番書きにくいのは、IQが500あるとか。
ケーカル: あぁ~~~~
じらく: 書けない書けない。
くど: いないもんそんな人間なんて。
のってぃ: 次点では、冷静沈着で常にミスを犯さないキャラ。
ケーカル: これはあれですね。例え書けたとしても、ミスしてくれないんで事件が起こらないってやつですね。そうなると、出た瞬間全てを解決してしまうキャラってのも使いにくいですね。
くど: そういうジャンルならいいんですけどね。
ケーカル: ワンパンマンとか。
のってぃ: そういうジャンルじゃないなら、やめておこうって話です。
メシオチ: ただ有能であることにビビりすぎて、みんなセキュリティクリアランス1とか2とかにしちゃうから、いざ管理者レベルのキャラが欲しくてもいないんですよね。
くど: 年齢や経験の問題はありそうですね。学生さんだと、権限の広くて偉い管理職って身の回りになかなかいませんし。バイトの店長とかを元にクリアランス3を書くのも難しいでしょうし。
メシオチ: あとは主人公適性が低いのもあるかもしれないですね。管理者って基本的に事件に直接的に関わらないですし。でもみんな人事は主人公にしたいと思うから。
くど: よしわかった。それじゃあ私が管理職が主人公の作品一個書いて見せますよ。
メシオチ: それはお願いします。僕みたいなガキには書けないんで。
ケーカル: 言葉が汚いよ~ 今回の対談ヤバいよ~~~
くど: ただここまでの話とは逆になるんですが、キャラの構成要素の全部を首尾一貫して狂わせておけば、とんでもない起爆剤として使われる気がするんですよね。
メシオチ: 確かに全部噛み合ったら滅茶苦茶面白いだろうなー
くど: 中途半端に普通なキャラが一番使いにくいですからね。
ケーカル: だからあれか。記号化していこうって話をしていたけど、記号化ってのは決して凡庸にしろって意味ではない。
メシオチ: あーそうですね。
ケーカル: 霧甲水博士みたいな感じ。あれはもう非常に記号的な筋肉ムキムキのキャラクターで、ちょっと描写すれば「ああこういうキャラね!」ってわかってもらえるレベルなんだけど、決して凡庸じゃないですからね。だってドアが泣いてるんだから。
メシオチ: どう考えたってキャラが立ってる。
ケーカル: じゃあそろそろまとめましょうか。「どうすればシェアされるキャラクターを作れるか?」って話から始まりましたけど、出た答えはこんな感じですかね。
- 人事ファイルに情報はしっかり書く。
- できれば実際に動かしてみる。
- キャラを作るときは、役割や能力を意識する。
- キャラはある程度記号化する(記号化 ≠ 凡庸な人間)。行動原理、性格、職務全部が奇をてらっていると動かしにくい。
- ただ逆に全く記号化されていないキャラも、ワンチャン起爆剤として採用されるかも……?
メシオチ: 意外とまとまりましたね。
のってぃ: んまあ身も蓋もないことをいうと、凡庸じゃないものを書ける人は記号使っても凡庸じゃないものをかけるし、逆もまた然りという。
ケーカル: そりゃとんでもなく強い著者は何でも調理できるみたいな話じゃないですか!
メシオチ: 身も蓋もなさすぎる! 僕らはみんな凡庸だよ!
ケーカル: でも凡庸な我々でもシェアできるようなキャラクターを作りたい。
メシオチ: そう、そうです。このキャラ好きだなーって思ってもらえて、しかも気軽に、誰でも使えるようなキャラがいたらいいなってことですよ。
くど: ああ、リュウみたいなキャラが欲しいってことですね。
メシオチ: リュウは使いづらい! リリーですよリリー。
ケーカル: それは後で戦って決めてください笑
人事Taleの印象なぜか悪い問題
ケーカル: 次の議題は、くどさんからお願いします。
くど: Xでの感想ポストとかを読むと、「人事Taleだったけど楽しめた」ってコメントが結構ありまして。それ自体はとてもありがたいんですけど、同時に「え、人事Taleはつまらないって前提が共有されてるの!?」って驚いたんですよね。
メシオチ: まあ、そうでしょうね。
くど: そういった風潮が昔あったのは理解してるんです。どうしてもコミュニティが小さい初期に、内輪ネタっぽくなってしまった結果、そういう風潮になったのはなんというか、しょうがない側面もあるなと。でも自分は内輪ネタにならないように書いているし、自負しているので、それを読んでなお「人事Taleなのに」って表現になるところになんでだろうね、と。ここは事前にケーカルさんにお伝えしていたところですね。
ケーカル: はい。そうですね。
くど: さらにその後ドーナツを食いながら思ったことがあるんです。好きなキャラクターが料理してたり、煙草吸ってたりしてたら楽しいですよね?
ケーカル: そうですね。好きなキャラの二次創作とか見るのも、そういう動機ですし。
くど: でもそのキャラを知らん人からしたら、つまらないですよね。だからそのままお出ししたら、内輪ネタになってしまう。
メシオチ: 結構その通りだと思います。
ケーカル: 著者がそのキャラクターが食事をするシーンを書きたくて、一部の読者もそれを読みたいとしても、逆にそれ以外にとってはつまらないものになってしまうと。
くど: そうですそうです。そのときに、他の人にも楽しんでもらえるようには、二つの手段があるんですよ。その一つは、例えば食事をするという行為そのものに意味と展開を持たせて、ストーリーの中心に据えてしまうこと。
ケーカル: あー、それこそ、つみばんみたいな。
くど: キャラクターが食事をするという行為そのものを事件にして、アクションを起こしていく。
メシオチ: イチャイチャさせるだけじゃないよと。
くど: イチャイチャはさせますけどね。まあそれはおいておいて、もう一つの手段が、その食事シーン自体、食事をしているということ自体にはあんまり意味がないんだけど、シーン中で描かれる会話とか情報とかに意味があって、それが全体的な展開に繋がっていく、みたいな。この食事シーンはあくまで主題ではなくてパーツなんですけど、好きな人が読めばパーツも美味しい作品にできます。
ケーカル: つまり、やりたいことだけ書くんじゃなくて、やりたいことを含んだエンタメにすると。
メシオチ: あるキャラが動くこと、解像度が高まること自体を面白さにしてはいけないってことですね。でもこれ、今だとほとんど常識みたいな話じゃないですか?
くど: その通りです。今はみんな、好きなキャラに好きなことをやらせながら、ちゃんとエンタメをやってるんです。むしろこういう工夫は標準装備されつつあるのに、どうして人事Taleに対する悪い印象がそのままっていうのは、価値観のアップデートをしたほうがいいんじゃないかと。
ケーカル: 文句やん!
メシオチ: ただ俺は、完全に反論をしたい。レスバをしたい。
ケーカル: こい! いいぞ!
メシオチ: こちらのグラフをご覧いただこう。
メシオチ: これはその年に作成された著者ページのうち、人事ファイルが掲載されているページの割合をグラフ化したものなんですけど。
くど: すごい、グラフかけたんだ。
じらく: パーセントが2つ被ってんじゃねえか。
のってぃ: 「グラフかけたんだ」は失礼すぎだろ。
メシオチ: 落ち着きましょう。慌てるほどじゃない、まだ。
メシオチ: これみてもらったらわかるんですけど、明らかに減少傾向にあるんですよ。特にくどさんが一番活発だった2020年から2021年への下がり幅が一番大きいんですね、これ。で、これが何かを調べるために、僕は2017年までの著者ページ全部見ました。
くど: すごい。考察もあるんだ。
メシオチ: わかったのは、作品リストしかないようなシンプルな著者ページに、人事ファイルがあんまりつかなくなってきているということです。
ケーカル: そりゃ著者ページから人事ファイル取ったら、残りはリストくらいになるんじゃないですか?
メシオチ: 意外とそんなことなくて、裏話とか、個人コンテストとか、なんらかの資料とかもありますね。そういうのがあるページには、人事ファイルが結構載ってました。もちろん、ない人もいますけど。
ケーカル: シンプルリスト +* 人事の著者ページが減ったと。
メシオチ: で、なんでこんなことになっているか考えました。2019年、2020年あたりを思い出してみると、みんな著者ページを作ったら「○○の人事ファイル」みたいな名前にして、人事を載せるのがある程度義務というか、当然になっていたと思うんですよね。2021年以降はその雰囲気がなくなってきたんじゃないかと。
ケーカル: なるほど。
メシオチ: で、それからさらに考えを進めていくと、人事っていうジャンル自体に対しての認知とか情熱みたいなものが、もう下がってきてるんじゃないかなって思ったんです。
ケーカル: 段々みんな人事への興味がなくなってきていると。
メシオチ: それで、昔はクオリティとか内輪感の問題で人事Taleに悪い印象がついてたって話は同意するんですけど、今はもうクオリティとかじゃなくて、単純に読まれてないだけなんじゃないかな。
くど: 人事Taleというジャンルが衰退している、と。
のってぃ: これ人事が減っていることはいえるかもしれないですけど、人事Taleが減ってることは示せてなくないですか?
メシオチ: Tale全体のうちの人事Taleの割合は調べようとしたんですよ。調べようとしたところで燃え尽きて、寝ました。
ケーカル: まあでも人事への関心自体は間違いなく下がってきているんじゃないかと。
メシオチ: はい。それでここからはデータのない空中戦を始めるんですが、最近は人事のためにサイトに入る人は本当にいないと思う。
ケーカル: 人事を書きたいからってことですか?
メシオチ: いや、特定のキャラクターに興味があってってことですね。
通行人: いやぁ、私は人事からだったよ?
ケーカル: いるよね。そういう人普通に。
通行人: ぶっちゃけ私もそこからですが、私たちは「昔からいる人」なので……
ケーカル: うぐっ。いやでも今もいると思うし見たことはあるけどね。
メシオチ: ゼロとはいいませんけど、基本的に動画とかアニヲタとかで触れるのって、TaleじゃなくてSCPじゃないですか。
ケーカル: まあそうですね。普通は人事ってより、モンスターに惹かれて入る人の方が多いか。
メシオチ: だから新しく入ってくる人にとって、人事って興味はないものだから、「人事Taleの割には」って感想になってもおかしくないんじゃないかと思うんですよね。あくまでメインストリームはSCPなんで。
くど: 別に食べたくないけど、食べてみたら意外と美味しかったな、みたいな。
メシオチ: だからこれは当然の話なんですよね。異論があることがよくわかんないです。
ケーカル: ……でも、「人事Taleの割には」って言葉が出てくるってことは、人事Taleという概念が形成されるくらいには読んでるってことですよね。その場合、興味がないことはくどさんの話に対する反論になってなくないですか? くどさんは「今は興味がなくても楽しめる作品が多い」って主張してるわけですし。
メシオチ: う~ん、そうなんですよね。なんでなんでしょうね。
ケーカル: おい!
のってぃ: Tale一覧とかランダムから読んだら、いつ書かれたとか気にすることがないからじゃないですか?
メシオチ: あとはあれですね、人事ファイルって三作目で作るじゃないですか。そこからすぐ人事Taleを書くと考えると、どうしても煮詰まらない状態で出てきやすいのかもしれないですね。例えそれが消えたとしても、消える前に読んだのが少しずつ蓄積していって、そういうイメージになっているのかもしれない。でもやっぱり一番大きいのは、人事への興味が失われてきていることだと思います。求められていないわけだから。
ケーカル: まあ求められていない以上、どんだけ人事を上手く掘り下げていたとしても、「興味ない」で終わりですからね。せっかくクオリティ高いだけど。で、そういうのを読んだ後に、エンタメ性が付与されているのを読むと「あれ、これ人事Taleなのに面白い」ってなるのか。
のってぃ: 実際新着読みとかコンテスト全部読みとかしてる人ほど、「おかしな話し方でキャラ付けしている」「キャラの名前が特徴的すぎる」とか、そういう人事Taleの特徴で身構えるって人は多くいますね。
ケーカル: 申し訳ない! 確かに僕、「人事Taleかよ……」って言いながら読んでることあります。
くど: ラスボスがここにいるじゃん!
ケーカル: こう、色んなものを見て来たので……笑 ただ当事者からすると、こういう悪印象は確かにあるんだけど、消せるものでもないから受け入れていくしかない気はしますね。自分の話にはなりますけど、悪印象を持っているとはいえ、面白かったら普通にUVしますし、すげーって思います。別に人事Tale自体が嫌いなわけじゃないので。
メシオチ: ただ人事に興味を持ってもらうこと自体はできると思っていて、みんなSCPを読みに来ているなら、SCPに人事を出しちゃえばいいじゃんという。 拷問教会とかは上手く行ってますし。
のってぃ: 実際戸神とか蒼井はそこからの人が大半だと思いますね。
メシオチ: ブライトとかもそうですからね。
のってぃ: 報告書にネームドを出そう!
ケーカル: 人事に興味を持ってもらおう!
メシオチ: おい、これSCPだぞ。食えよ。
キャラクターを消費する
ケーカル: ここからはついに「キャラクターを使ったTaleの書き方」についてお話していきましょう……と、その前に、ずっと僕が考えている「キャラクターの消費」って概念について説明させてください。
くど: 私はなんどかお聞きしたことのあるやつですね。
ケーカル: そうです。改めて説明するんですが、まず人事Taleの特にプリミティブなものは、内面を吐露して秘密や闇を明らかにするものや、成長譚があると思うんですよ。前者について言えば、一度明らかにした謎って、当然ですが次回作でもう一度メインの魅力として再利用することはできない。成長譚についても同じで、同じ成長を繰り返すことはできないし、だからといって色々な方向に成長させ続けてしまうとそれはもう元のキャラクターではなくなってしまう。
メシオチ: 元のキャラクタ―でなくなるっていうのはどういうことですか?
ケーカル: シェアワールドなんで、キャラの設定って基本的にあんまり変わらないことが前提になってるんです。例えば、猫を殺せないって設定のキャラが、猫を殺せるっていう風に変化しちゃうと、それはもう作者が意図した元のキャラじゃなくなってしまう。そういう意味でやれる成長ってのはかなり限定されていて、標準カノン内でやろうと思うと、「現在のキャラがどうやって人事Taleに書いてあるような人間になったか」みたいなストーリーになってしまうんですよね。
メシオチ: 確かに、どんどん変化したら、最終的に人事ファイルに載っているキャラクターとは全然別のキャラになっちゃいますもんね。
ケーカル: そういう成長や内面、過去、謎の掘り下げって、結局数に制限がございますよね、って話をしたいんです。だから、そういうキャラクターの過去や内面、謎を掘り下げたり、成長させたりする物語の在り方を、僕はネタを使ってしまう形の物語ということで、「消費的」と呼んでいます。
くど: これは悪い意味ではないんですよね?
ケーカル: もちろんです。キャラクター消費的な物語は、人事を深掘りして深みを与えるという点で滅茶苦茶重要です。ただそうじゃないやり方も知れるともっと人事を扱いやすくなるかなとも思っている感じですね。
くど: なるほど。要は「使うと発展の余地がなくなるから消費なんだ」ってお話だと思うんですよね。リソースを使ってっちゃうというか。
ケーカル: そう、そうです。
くど: それは「同じことを何回もやったら面白くないよね」という話で、非常に一般的な考え方で、そこは賛成ができます。一方で、じゃあ消費的なことをやりつつリソースを掘りつくさないようにするにはどうすればいいかというと、色んな人間関係を作っていくってことですね。
ケーカル: 関係の掘り下げの話ですね。
くど: そうです。例えば、あるカップルのイチャコラを主軸に置きつつ、その周囲のモブにフォーカスを当て、そのキャラのストーリーが描かれて、そこからカップリングが成立して……みたいな手法が、一つ少女漫画の強力な手法なんですけど、そんな感じで。もちろん、ずっと紋切り型の恋愛ものとか、同じような展開をやっていたら飽きられちゃいますけど、そこに憎しみ合いとか、様々な関係を導入してあげる。そうなると、色んなところで消費ができるようになりますよね。
ケーカル: ああ、新しい油田を見つけるみたいな。
くど: そうですそうです。もちろんそれも無限ではないでしょうけど、結構な量にはなるハズです。だから私の答えの一つは、「消費を減らすことで持続可能にする」ではなくて、油田を増やすことによる「持続可能な消費」ですね。
じらく: うーん、私はあんまり消費という考え方がしっくり来てなくて。あんまり使い切るってのがよくわからないんですよね。
ケーカル: 一度使った謎や成長、解釈は使えない、としてもですか?
じらく: はい。イベントや解釈、IFストーリーとかをいくらでも後付けできるので。
くど: 過去をでっちあげたりもできますね。
ケーカル: 確かにじらくさんはIFストーリーがお得意なイメージあります。確かIDコンで部門優勝されたときの作品もそうでしたよね。
じらく: そういう意味では、IFストーリーという油田がいくらでも増やせるのなら、消費みたいな問題はあんまり気にする必要がないと思うんですよね。
ケーカル: 僕の主観ではあるんですけど、どっちかっていうとIFストーリーは油田を増やすというより、掘削機を増やす感じなんじゃないかなと思うんです。
じらく: 掘削機ですか。
ケーカル: はい。色々なIFストーリー、掘削機を使うことで、色々な角度・深さを掘ることができる。でも掘っている油田自体は変わらないから、結局掘りつくしてしまうんじゃないかと。
じらく: なるほど。でもやっぱりあんまり消費ってのはしっくりこないですね。そもそも油田の埋蔵量は無限だと思っているので。
くど: 実は私もじらくさんの意見に直感的には近いです。
ケーカル: あー、そこから考え方が違うんですね。
のってぃ: あのー、ケーカルさんのお話って、映画の二作目がつまらなくなるってやつと関係してます?
ケーカル: すごい。その通りです。消費について考え出したのはそこからなんですよ。基本的に一作目で主人公の悩みとか秘密とかを全部消費しきってしまうから、二作目って駄作になりがちなんですよね。
のってぃ: 実際に映画とかでは、そういう消費による問題は起こっているわけですよね。
ケーカル: ああ、じゃあ難度の問題かもしれませんね。
じらく: 難度ですか?
ケーカル: 確かにお話を作るのが上手い著者であれば、とんでもなくデカい掘削機を使って深くにある石油を掘ることができる。じらくさんがおっしゃるように、それは無限かもしれないです。ただ、それはあくまでスキルフルな著者の話になってしまう。シェアワールドを作っていくのは、僕も含めて普通の著者が多いと思うんですよ。人事Taleとして一種定型的な、プリミティブな掘り方で掘れるものを掘りつくしてしまうと、普通の掘削機で掘れる石油はなくなってしまうような気がしていて。
メシオチ: ただキャラを広めて、みんな知っているようなキャラを作っていく場合には、凡庸な俺たちでもキャラクターを使える方法が欲しいですよね。それこそさっきSCPにネームドを出すって話があったんですけど、とにかくキャラとの接点、登場作品数を増やしていく必要があって。
ケーカル: はい。だからそのための新資源として、非消費的な物語が使えるようになるといいなって。もちろん、消費的な物語、掘り下げが重要なのは言うまでもないんですけどね。
消費的な物語の書き方
ケーカル: 消費の概念についてわかっていただけたところで、最初は消費的な物語の書き方についてからお話していきましょう。やっぱり人事Taleって言われて想像するのはこっちですしね。
くど: 一つ私が心掛けていることは、未来を想像できるように描くということですね。キャラクターは誰しも、人と違った物語を持っているというか、外れた部分を持っていると思っているんです。それこそさっき、そういう風にキャラクターを作ろうって話をしましたけど。その外れている部分を主題にして、主人公がイベントにぶち当たって、それを解決して乗り越えるって物語が基本ですよね。で、持続可能性の話にもつながってくるんですけど、その後の未来を想像できるかどうかが大事だと思ってまして。
ケーカル: 話を繋げる余地を残すことでそのキャラを使った次のお話が書きやすくなるというだけでなくて、一話完結だとしても重要ということでしょうか?
くど: はい。その物語が終わっても、この主人公は別の話で主人公として活躍したり、あるいは案内人だとか、任務にあたって役割を持ったりすることができるかどうか。そういう部分を意識すると、魅力的な物語になる気がしていて。あと、ここまでの別作品に続くような形で作品を書いたのであれば、追加された部分と、そしてこの関係性を使って次を書けるビジョンがわかりやすければいいですね。消費しきらない。無理に消費しきると逆に浅くなるのかもしれません。
ケーカル: 確かに未来を考えないなら、綺麗にまとまりすぎた紋切り型の答えになってしまう可能性もありますもんね。
くど: もちろん未来を考えない、消費しきるような物語でも、丁寧に説得力を持たせてやればかなり面白いものができるとは思います。
ケーカル: なるほど……面白い視点をありがとうございます。それでちょうど今「浅い」という表現が出ましたけど、特にキャラクターの内面を掘り下げるときに、「浅い」という印象は避けたいですよね。どうすれば「深い」感じを出せるんでしょう。
のってぃ: にをすのをやればいいんじゃないですかね?
ケーカル: ありがとうございます笑 まあでも僕が話すんじゃなくって、せっかくなら直近で書いた方に教えて頂きたいなって。
じらく: あー、浅いとはちょっと違うかもしれないんですけど。キャラが気持ち悪いと感じることはありますね。
ケーカル: 気持ち悪い……確かにあるかも。
じらく: こう、性癖というか趣味を丸だしのキャラ設定で、しかもそれが活かせていないとあんまり好きになれず、むしろキャラが不快になって終わってしまうことはありますね。
ケーカル: 確かに、性癖って他人から見たら基本的にキモいですもんね。
くど: 性癖単体だとね、商品力がないので。
メシオチ: ラッピングしてお渡ししたいですね。
くど: 誰でも楽しめるようにね。
のってぃ: あと、答えを他人がセリフで出しちゃうのはやめた方がいいですよね。
一同: あ~~~~~~
くど: 自分が気付かなきゃいけない。
のってぃ: 特に「抽象的な問いに対する抽象的な答えを、全部他人のセリフで教えてもらう」ということをやると、大体消えますね。
くど: 作者が課題として出したものの答えっていうのが、多分作者の頭の中にあるわけで、その答えを直接便利なキャラクターが喋って出したという風に出してしまうと。課題解決には主人公の葛藤とか経験なりがなきゃいけないんですけど、それを安易に、展開で語らずにセリフで語ると浅くなるよって。
ケーカル: あとは自分で答えを見つける以外のケースとして、誰かからアドバイスをもらうのはいいんだけど、最終的にそれを迷って、選び取る決断をするのは主人公でなければいけない。その迷いのフェーズであったり、自分でつかみ取るっていうフェーズを入れないといけない。
のってぃ: さらにそれが直球でないやり方で、かつ具体的になればいいのかなということは思ってます。具体・抽象を行ったり来たりするフェーズが必要だなと。あとは問いも答えもありがちな場合でその間に何もないときは、質問を聞いた時点で答えが見えてしまうことがある。その場合、答え自体に作品の魅力を頼っていると弱いですよね。
じらく: SCP記事でいうテンプレバックストーリーみたいな。
メシオチ: 「死んでもいいのか?」から「死なない!」みたいな。
ケーカル: 「もうちょっと自分を大事にしろ」って言われて、最終的に「自分を大事にします」ってなるケース。
のってぃ: そういう場合には、少なくとも途中に「自分を大事にしなければ終わってたな」みたいなエピソードを入れてあげたり、逆に「自分を大事にしなかった結果誰かを護れた経験がある」みたいなズラシを入れてあげて、それか別の魅力を用意してあげないと、見覚えのある問いと答えだけで十分面白くするのは難しいですよね。
ケーカル: 安易に「間違いから答え」という流れを作ってしまうと浅くなってしまうって面もありそうですね。自分を大事にしないやつは、「自分を大事にした方がいい」ということを知らないというわけではなくて、自分を大事にしないだけの理由がある。それを忘れて物語を作っちゃうと、ただ算数の問題が出されて、その答えが提示されて終わりになってしまいます。答えなんだから悩むまでもなく、「ああそうだよね」と受け入れるしかないわけですし。一方で「間違い」ではなく「かつての答え」が「今の答え」に移り変わる変遷だと捉えると、そこに葛藤や悩みが生まれてくる。
のってぃ: そういうことです。
ケーカル: 今は「どうやって語るか?」「どうやってテーマを深く見せるのか?」というところに着目した話になっていますけど、「何を語るか?」、つまり「どうやって深いテーマを作るのか?」って部分も気になりますね。
くど: うーん、難しいですね。
ケーカル: 例えばつみばんはどうでした?
くど: あの作品については、「所詮分かり合えない他人が一緒にいるにはどうすればいいか?」という問いに、「分かり合えないなりに一緒にいるという覚悟を決める必要がある」と答えていますね。
ケーカル: これを聞くだけで、なんか深いなぁって 。
メシオチ: 1+1ではないなあってなりますねこれは笑
ケーカル: このテーマはどうやって思いついたんですか?
くど: 「分かり合えない他者が一緒にいる」ということが、この作品だけというよりDr_Kudoの中で根本を占めるテーマで、基本的にはこれしか書いてないです。
ケーカル: 人生の問いなんだ!
じらく: くどさんずっとそれ言ってるからな……
くど: 私はこれに答えを出すために物語を書いているので。だから、「人とスシという違ったものが分かり合う話」というものが、刺さってしまったんですよ。
ケーカル: じゃあ深いテーマの見つけ方は、「人生の問いを見つけろ」なんだ。
メシオチ: 人生の問いを一個見つけてれば、それを無限に擦れるから。
くど: ちなみにちなみに、神林長平って私が尊敬しているSF作家がこれと同じようなことを言ってて。「作家っていうのは、自分が人生の中でリアルだと思った一つのテーマを追い続けるしかないんだ」って。私はこれの影響を中高生のときに受けてしまって今があるんですけど笑 そこまでは言わないので、自分の中で気になっているテーマがあれば、それを作品に重ねることができないかってやると、テーマが裏に一本通って、説得力や面白さが増しますよ、というのはTipsとしてあります。
ケーカル: 人生の問いを見つけようという話になってしまいました。
じらく: でかいな~
メシオチ: 無理だよ! 無理だって! 10代がメイン層なんだぞ!
ケーカル: メシオチさんだって新作は人生の問い的な……
メシオチ: 人生の不平不満というか。
くど: そうですそうです。問いに限らず、そういう自分にとってリアルなものをやりましょうねって話かもしれない。
通行人: でも男子高校生のリアルな悩みを持ってこられても……
ケーカル: SNSとかで見たことあるしつまんないよ、みたいなね。
くど: それはね、原液を持ってきてるからですよ。原液だけお出ししても面白くならないので、それをどうエンタメにするかが重要ですね。
メシオチ: でもエンタメにしないからこその味もあると思うんですけど。
くど: ありますあります。それを私は原液と呼んで愛しています。
ケーカル: 奇特な誰かは原液も愛してくれるかもしれないと。
のってぃ: 他の考え方だと、メインの問いを一個捻りたいってのはありますね。
ケーカル: 特にどういうことを言ってます?
のってぃ: 最初に思いついた問いが、人事担当が友人を財団に引き込むってなったときに、「友人を危険な目に遭わせてもいいのか?」ってものだったとします。それに対する答えが「職務だから仕方ない」だったら、浅くて一瞬で消えるのはわかるじゃないですか。
ケーカル: めっっっちゃ浅いですね。
のってぃ: ですよね?笑
ケーカル: びっくりするくらい笑
のってぃ: なので、この最初に思いついた問いはもう一回解決済みにしちゃうんですよ。友人を引き込んだことに対しては、もう割り切ってることにする。割り切ったうえで、「一切心が痛んでいないし、この状況で安心感を覚えている自分はどこまで人でなしになってしまったんだ」って、一個捻りを加えるんです。
ケーカル: 確かに、安直な問いに答えを出してその先を考えるというのは、さっきでてきた「間違いから答え」じゃなくて、「前の答えから新しい答えに」って考え方と似てますね。
のってぃ: 自問自答で答えがでるようなことは、もう物語が始まる前に答えを出させておくんですよ。そのうえで、異常事態が起きたとき、状況が変わったときに、新しい問いが生まれてくるんです。
くど: 読者が読んだ瞬間にトリックが分かるミステリって面白いか?みたいな話ですね。浅いテーマで書きたい人には酷な話ですが。
メシオチ: そうだよホントに! 俺は誰よりも浅い悩みを擦り続けてるんですよ!
ケーカル: あ~、メシオチさんはどっちかというと、悩みに深い答えを見出すとか、成長を描きたいというより、悩みによる等身大の苦しさみたいなものを描きたいのかなとは思うんですよね。
くど: Aメモはそれ成功していると思ってて、だってあれ「治ったー!」って話ではないじゃないですか。
ケーカル: 凡庸な悩みでも、その苦しみをリアルに描くことができれば、それは一つの魅力になるのかも。
メシオチ: むしろ凡庸な方が、みんなが抱えてもらえる悩みだから、共感してもらいやすいし。
くど: 文学っぽいことをいうと、「自分の悩みは凡庸なものなんじゃないか」って悩みながら、それでも自分の苦しみをちゃんと書くっていうのは、すごく文学ですね。いいですね。
ケーカル: でも、我々は大体締め切りに追われてるわけですけど、「締め切りに追われてるのが苦しいよ~」って書かれても、「ふーん」ってなりません?
メシオチ: 面白いと思う人もいるとは思いますよ。
くど: ちゃんとエンタメにすれば。
のってぃ: いざ取り掛かろうと思ったら全然とんちきな横やりが入ってくるみたいな。
メシオチ: それとんちきが面白いだけじゃないですか!
ケーカル: うん。それは展開がおもろいだけだなあ。苦しみの表現が効いてるわけじゃない。
メシオチ: あんまり納得感がないですね~。苦しみをメインウェポンにしたいんで。
ケーカル: うーん、じゃあちゃんと「翻訳」しないといけないって話なのかもしれない。僕はね、リボ払いで苦しんでるんですけど、大学生とかがリボ払いで苦しんでいる作品を見せられても、「別におもんないな」って思う。でも、孫正義がリボ払いで苦しんでたら面白いかも。
通行人: ほんとか?
のってぃ: 面白さの感覚バグってませんか?
メシオチ: それやるとしたら、リボ払いを滅茶苦茶大袈裟にやるしかなくて。リボ払いするたびに親しい人が一人ずつ死んでいくみたいな──
ケーカル: その苦しみってさ、共感できます? Aメモでやった共感ってそれ? 本当に。
メシオチ: んーいやっ、違います。
ケーカル: 違うでしょ! やってないこと言わないでよ!
メシオチ: くっそ! いや、Aメモでやったのは、ひたすらリアリティを一回突き詰めた後に、それをリアルでないところでやったから意味がある話で。
ケーカル: そう! 僕はね、そこだと思うんですよ。つまり、苦しみの本質は変わらないんだけど、状況設定を特異なものにしてあげることで、その苦しみをより別の角度から描ける。
のってぃ: ああ、だから孫正義が出てきたんだ。リボ払いで苦しんでいるわけないから。
ケーカル: ちょっとこの例えはかなり悪かったですけど笑 まあでも、リアルな苦しみを書くなら、それをそのまま書くんじゃなくて、新しい状況、ちゃんと苦しみを象徴できる状況の中で見せないといけないよねってことですよ。
メシオチ: てか極夜灯がそれなんですけどね。独りぼっちは寂しいよね、って話を状況を変えながらやるところだから。寂しさの本質は変わらないんですけど、こんな状況の人でも同じことを思うんだっていう共感というか。そういうズラシをしないと、露骨になっちゃうし。
ケーカル: 露骨すぎると下手な私小説かよって怒られますからね。お前のことになんか興味ないよって。
メシオチ: そもそも私小説を書くことが難しいので、やっぱり第一消費対象を苦悩にするのは難しい気がしますね。だからこそ、のってぃさんとかくどさんがいってたエンタメにするっていうのが一番やりやすい気はします。苦悩を書きつつ別の魅力も持たせるのが、手っ取り早いんだと。
ケーカル: そうですね。どうしても魅力を一本に頼ると外したとき大変だから、オブラートとしてエンタメに包んであげるのが重要なのかもしれないですね。
非消費的な物語の書き方
ケーカル: じゃあ次の議題ですけど。キャラクターをあんまり消費しないTaleってどう書きゃええねん!
くど: 納涼祭。
ケーカル: んがぁぁぁぁぁぁぁぁ!
メシオチ: 対戦ありがとうございました。
ケーカル: 終わった! この話。
メシオチ: でも納涼祭は、消費的じゃないというより、人事じゃないオリキャラを消費しているだけだって話はありますよね。
ケーカル: そう。そうなんですよ。実はさっき紹介した消費の思想って、Xコン前までの話なんですよね。今はちょっと変わってて。
メシオチ: キャラTaleを実際に書いてみて、変わったところがあると。
ケーカル: はい。やってて思ったんですよ。「何かは消費する」って。
メシオチ: そりゃそうだよ。なんかおかしいと思ってたんだ。
ケーカル: 僕はXコン前までは、最強の環境団体みたいな主張をしてたんですよね。「エネルギーを全く使わなきゃ持続可能じゃん」っていう。
メシオチ: 滅茶苦茶ですからね。
ケーカル: 結局、物語を面白くするには、何かを消費しないと、ネタを消費しないといけない。けどそれは共有したいキャラクターかもしれないし、ミステリのトリックだったり、あとは他の登場人物だったり。
メシオチ: 完全に消費的じゃない物語なんてないと。
ケーカル: そうですね。だから今の私の問題意識は、より正確には「シェアされるキャラクター」以外を第一消費対象とする作品の書き方はどんなのがあるだろうか、って感じですね。納涼祭はそれへのアンサーとして、別キャラを消費するというやり方でした。
のってぃ: 確かに、これから納涼祭の主人公の続編を書けといわれるとかなり苦戦しそうですね。
ケーカル: で、僕の中の結論としてあったのが二つで、一つがミステリ。比較的短ければ、トリックや事件の謎のエネルギーがかなり大きいので、キャラ消費をしなくてもそれだけでやれる。もう一個が、さっきから話している別キャラ、その話限定キャラの消費ですね。
メシオチ: エンタメ化すれば解決ってことにならないんですか?
ケーカル: 皮肉とかギャグとかならいけるかもしれませんね。最後に「ちゃんちゃん」って効果音がつくような。だけどそうじゃないエンタメの作り方、例えば三幕構成とかって、基本登場人物の成長を前提にしてるので、エンタメ化するとほぼ確実に何かしらのキャラ消費が入るんですよ。それがないとテーマが薄くなって、読後に虚無感が生じます。
メシオチ: それだと、一貫したテーマで群像劇やるとかになりますかね。
ケーカル: あ~! それありだなぁ。キャラ一人を成長させるんじゃなくて、分散消費にするのか。
メシオチ: そう。全部をちょっとずつ消費するっていう。
ケーカル: というか、ほとんど消費しなくていいかもしれない。群像劇なら大体長くなるんだから、解決された課題や登場人物の行動をまとめると、より大きなテーマが浮かび上がるようにしたらいいんだ。それか既にキャラの持っているテーマを活用すればいい。ただ。問題があるとすれば……
メシオチ: 群像劇を書くのは、かなり難しい。
のってぃ: 少なくとも初心者向けではないですね。
ケーカル: まとまりを与えるのが難しいですし。
のってぃ: そういう意味では、真北麻雀はあまり主人公を消費していないですけど、しっかり面白いですよね。
ケーカル: あー、あれは知略バトルもの的な面白さですよね。「相手の能力・策略をどう乗り越えるのか?」が主眼になるタイプ。これは確かに、主人公をあんまり消費せず、敵の内面もあんまり消費されませんね。ミステリ型と別の登場人物消費型の中間みたいな。そういうやり方もあるか。
じらく: ちょっと話聞いてて思ったんですが、例えばミステリって消費的じゃないんですよね。
ケーカル: そうですね。もちろんキャラの掘り下げをしてもいいですけど、それをしなくても、謎解きだけで一本成り立つくらいの面白さがあるので。
じらく: それ、そのキャラ使う必要ありますかね。
ケーカル: ……じらくさん。
じらく: はい。
ケーカル: 鋭いですね。その話は実はこれからやる予定でした笑 せっかくなんで、このまま「そのキャラを使う必要ある?」について話していきましょう。
「そのキャラである必要ってある?」
通行人: これ批評でめちゃくちゃ言うわ~
ケーカル: ですが、この対談は、さらにその一段上を行きます。
通行人: なにーッ!
メシオチ: 深え~~~
ケーカル: 僕はそもそも、「そのキャラである必要」なんて、必要ないと思ってるんですよね。
メシオチ: 批評で「そのキャラである必要ありますか?」って言いますけど、その指摘自体がどうなの?って話ですね。
ケーカル: 「そのキャラである必要」っていうのは、作者がそのキャラを使いたいかどうかとは別に、「このストーリーはそのキャラでやらなくてもよくね?」って思ったときに出てくると思うんですよね。でも逆に、「そのキャラじゃなきゃいけない状況」なんて、そうそう存在しないと思うんですよ。
メシオチ: ん? どういうことですか。
ケーカル: 例えば元々「太郎」というキャラがいたとして、そのキャラが主人公のストーリーを作るじゃないですか。でも、ぶっちゃけそのストーリーって、背景とか設定はそのままに、名前だけ変えたキャラでもやれてしまうと思うんですよ。なぜかって言うと、新しいキャラクターなんていくらでも自由に使えるんだから。既存のキャラクターを使う際は、常に「名前だけ変えた別のキャラクターを使う」という選択肢が生じるんですよ。そうなると、厳密な意味での「そのキャラでやる必要」なんてものはほとんど存在しないと思うんです。
メシオチ: まあそういわれればそうかもしれない。
ケーカル: それに、ある作品に対して「そのキャラである必要ってある?」思う人もいれば、そうじゃない人もいる。「そのキャラである必要がない感」という一種の感覚は、読者の主観的なものであって、客観的なものではないんですよね。
メシオチ: ダウナーな桃太郎の話だ。
ケーカル: まさにそう! ダウナー部分に着目する読者は、仲間を集めている桃太郎をみて「それダウナーな桃太郎でやる必要ある?」って思うかもしれません。でもダウナー部分より桃太郎部分を意識している読者は、「そりゃ桃太郎なんだから仲間を集めるだろう」と思いますよね。良い例えだ。ダウナーな桃太郎、流行らせましょう。
くど: 「必要あるかどうか」という問い自体が、本質でないところに議論を生んでいる、本当の問題を覆い隠してしまっていると。
ケーカル: はい。今回でいうと、「そのキャラ使う必要が薄いと感じました」というだけでは、「ダウナー要素について一部の読者と解釈違いが起こっている」という問題が分かりにくくなってしまいますよね。だからこそ、問いが逆だと思うんです。私たちが批評で、「そのキャラ使う必要ある?」って思うときは、きっと必要が「ない」んじゃなくて、何か問題が「ある」ときなんです。それを探っていきたいなと。
くど: 実際に、「そのテーマでその人事を使うなら、背景とか能力がもうちょっと噛み合った新しいキャラクターを作った方がいいんじゃないか」と思ったことはありますね。これについては、作者が「このキャラでこれを書きたいんだ!」って情熱をお持ちだったので、それならそのキャラを使うしかないねとはなったんですが。キャラクターがテーマの奴隷ではないとするなら、多少のずれはあってもいいのかもしれません。
ケーカル: 確かに、好きなキャラを使うってのはモチベ的にも大切ですしね。でもやっぱりこのケースでも、何かしらの問題が起こってるからこそ、読者がキャラクターの必要性みたいなものを気にしてしまったんじゃないかと思うんですね。例えばサイズのあってないグローブをつけているから、パンチの威力が落ちているという問題が起きているとか。
メシオチ: そのキャラクターである必要性の薄さじゃなくて、本来出せるはずの威力が落ちているということ自体が問題だってことですね。
ケーカル: あとはキャラずれ、解釈違いによる違和感みたいなものもあるとは思います。
のってぃ: 作者の気持ちも考慮に入れるなら、「威力の低下や解釈違いを乗り越えてまで、そのキャラを使うメリットはあるのだろうか」って問いになりますか。
メシオチ: そうですね。キャラを使う必要なんて気にしないくて良いんだけど、そのキャラを使うことでプラマイ合計マイナスになっちゃったらアウトだよね、っていう。
ケーカル: 言語化ありがとうございます。「そのキャラである必要ある?」って思うときに起こっていがちなデメリットって、他になにかありますかね。
のってぃ: でもそのキャラが出て来たのに、そのキャラの特徴が何も登場せずに終わったら、さすがに「そのキャラを使った必要ある?」って話にはなるかもしれません。
ケーカル: 「物語で活躍しない不要な登場人物」ってやつかもしれないですね。基本的な物語の原則として、「登場人物の数を圧縮せよ」というルールがあるんです。不要な人物は読者を疲れさせるだけだし、「この人物が何かしらの役割を果たすのだろう」という期待を裏切ることにもなるから。「特徴を何も活用していないキャラが登場する」ことは「誰でもこなせる役割のためにわざわざ登場人物の数を一枠分増やしている」という点で、かなりの違和感を生むんですよね。
くど: ただ特徴っていうのには、そのキャラのコンテクストも含むと思います。例えばスシブレーダ―がスシを回さなくても、スシを回すだけが彼の人生ではないから。
ケーカル: 確かにわかりやすい特徴だけじゃなくて、人間関係や経歴みたいなものも大事ですね。「ここでこいつにこれを言えるのはこのキャラだけ」っていう活用の仕方はあるはず。
ケーカル: あとはなんだろう。単純に掘り下げが浅いとかもあるかも。吹上人事官で「う~~ん、労働基準法守った方がいいかなぁ?」「みんな大事だから守った方がいいよね!」みたいな話を書かれたら、「いやそんな話、吹上人事官でやるなよ!」とは思う。だけどこれは多分、単純に面白くないだけ。
メシオチ: それも確かに、「キャラを使う必要が薄い」というよりは、「浅いから物語が単純に面白くない」なのか。
ケーカル: あとはこれも解釈違いが絡んでくる気もしますけど笑
メシオチ: 雑に使うなよ、っていう。あらゆるものを。
くど: 解釈違いを起こしてもいいという気持ちで、だけど丁寧にやるならそれは全然いいですけどね。
ケーカル: それこそ序盤に話した、解釈バトルみたいな話ですよね。でも逆に、マイナスの要素さえなければ、「人事部の人に話させる必要あるな~」くらいのニーズで、吹上さんを使ってもいい。
くど: それこそ、そのキャラが好きだから登場願っている、という動機でも多分全然いい。
メシオチ: そうですね。そのキャラが好きだから。
くど: だから、「このキャラである必要あった?」ってのは悲しみの声なんですね。そのキャラが好きな読者の、何かしらのマイナスがあったときの、嘆き。好きなキャラクターが雑に扱われていると悲しいというお気持ちの話なんです。
通行人: リアリティの話と似てますね。
ケーカル: ああ、あれですね。リアリティが欠けてるから突っ込まれるんじゃなくて、単に面白くないから読者の中でつまらなさの理由探しが始まり、その結果リアリティの齟齬が突っ込まれてるんだという主張。
メシオチ: ただもちろん、リアリティとキャラクターの両方にいえることですけど、どんだけ面白かったとしてもその齟齬にキレてくるファンはいるんだってことは忘れてはいけないですよね。
ケーカル: これはキレてくる人が理不尽というわけじゃなくて、単に趣味の違いの話ですもんね。地雷みたいなのは誰にでもあるし。
のってぃ: それを頭に入れたうえで、覚悟を決めて、面白さで殴ろう!
話は舞い戻り……
ケーカル: さっきの消費的ではないTaleの話に戻るんですけど。消費的じゃないTaleを書く方法としてあがった、ミステリや群像劇、他の人物の成長譚って、共通の問題があるんですよ。それは、これをやると、長編になるんです。
メシオチ: そうですね。
ケーカル: これが短編でどうにかならないかっていうのが、今浮かんできた僕の問題意識なんですが。
メシオチ: 群像劇は頑張れば二万字以内で行けると思いますよ。
ケーカル: いやでも二万字じゃん。一万字以下でやりたいんですよ~
メシオチ: 無理!
くど: そうなると、物理的に情報量を圧縮しないといけないですよね。
のってぃ: キャラの説明して、その短さで展開作るとなると、それこそ有名オブジェクトをオチに持ってきてリンクを貼るとかしかないですよ。
メシオチ: 後は会話が滅茶苦茶面白いとか。
くど: 短くする以上、情報を作品の外部に依存するしかなくなるんですよね。
じらく: クロスリンク的な感じですか。
くど: はい。それかもう長編対談を読んでいただいて、気合入れて書いてもらう。
ケーカル: それは本当に、はい、もう間違いなく一手ではあるんです。あるんですけどぉ……長編って短編と比べてあんまり読まれないし、モチベとかの意味で……
メシオチ: まあ、長編はコンテストでもどうしてもVote集まりにくいですしね。
ケーカル: それで一万字でキャラTale作るってなると、やっぱり独白ベースの掘り下げっていうのはできるし、みんなそれに走っちゃうんだけど、そこに新しい手法を提案できたら、マジですげくね?って。そう思ってはいるんですが、全然思いつかないんですよね。
メシオチ: 独白ベースはマジでよくなくて、まだ会話のほうがいいですね。
じらく: 会話って結構文字数かさむんですよねぇ……
のってぃ: 独白が面白く書ける人は、技術がかなりあるので、短編にこだわる必要があんまりないですよ。
じらく: 会話がうまく書ける人も同じですね。
メシオチ: 技術が滅茶苦茶高くなくても、発想が面白ければ短編は残りますよ。まあ発想が面白い人におすすめのフィールドはSCP記事なんですが。
ケーカル: 「SCPにネームドを出そう」になってしまうのか! やっぱじゃあ。
メシオチ: めっちゃ面白いSCPに名前だけ出す!? それも何かいやだけど!
ケーカル: もちろんちゃんと役割があるならの話にはなりますけど……
のってぃ: イフの話にはなるんですけど、もしチャウシェスク閣下の人事ファイルが元々あったなら、あのTaleは1万字以下で面白いキャラTaleになったんじゃないでしょうか。
メシオチ: それはあれですよ。やっぱり発想勝負なところじゃないですか。
ケーカル: ああでも、IFルート的なものなら、多少状況設定とか事件が突飛でもいいのでやりやすいかもしれないですね。あのTaleをチャウシェスクのIFルートとして捉えるなら。
じらく: チャウシェスク爆発IFルート。
ケーカル: 新世代の御先に失礼だったかもしれない。
のってぃ: じゃあもし、The scent of Aに人事へのリンクがついてたりしたら、面白さって減りましたかね。
ケーカル: あ~あれムズイ! リンクを忌避する人もいるし。
メシオチ: いや~Voteは減ったと思います。
のってぃ: でもゆうて三位か四位くらいには入るんじゃないですか?
メシオチ: 高評価なのには変わりないと思いますね。
ケーカル: 結局のところ、そもそもキャラに拘わらず、面白いショートTaleを書く技術があれば、そこに人事を乗せていけるってことですよね。だからこれは、今後開かれるショートTale対談のときに、是非色々なアドバイスをね。よろしくお願いします!
くど: もう人事とかキャラって枠を超えた話になっちゃいますからね。
メシオチ: そもそも独白や対話でキャラを掘り下げるTaleですら、ショートで高評価ってのは難しいんですよ。議題からしてかなり無茶な話ではありましたね。
ケーカル: 僕が今話してるのは、地熱発電で日本の電力賄えれば最強じゃね? みたいな話なんで、無理は承知なんですけど、何か得られないかなってェ……
じらく: それならもうちょっと早めに言ってほしかった……
ケーカル: それは申し訳ないんですけど、今思いついた疑問ではあるんですよね。対談って、答えを出すだけじゃなくて、新しい問いを発見する意味もあるんじゃないかな、と言い訳はさせてください。
じらく: 宿題として持って帰って考えたいくらいですね。
ケーカル: じゃあこの話題で多分一本対談撮れるんで、思いついた人から対談主催してもらう感じで笑
くど: 対談のサステナビリティが笑
じらく: 課題の余地を残した対談だ。
おわりに
ケーカル: どうしよう、この対談全然締まらないんだけど!
くど: じゃあせっかくなんで、未来に向けたコメントを言ってきましょうか。
メシオチ: まぁ~別に匿名のやつの方が伸びますよ。普通に。
じらく: はい。
くど: 敢えてキャラクター使うのはリスクが高いよ!と。
メシオチ: ……これ長編のときもやったって!
ケーカル: でも、おれさ……シェアワールド楽しいと思う! 羨ましいもん! シェアワールド上手くやれてる人!
くど: うん。俺もそう思います。
ケーカル: だから、俺たちも頑張るからさァ、みさなんも一緒に頑張ってくれませんか?
くど: 皆で頑張ろう。
じらく: シェアしよう!
くど: キャラを出したからって消えるわけじゃないですし、結構好き勝手やってもいいので。不安な方はあんまり気にしなくていいですよ!とはお伝えしたい。
ケーカル: そうですね。別に変な解釈出したからって殺されるわけではないですし。何かいい感じになってきたので大将、最後まとめをお願いします。
くど: 人事Taleはやっぱり、シェアして、広がって、思いもよらなかった解釈とか使い方とかが生まれてくるのが一番面白いので。解釈をしていきましょう。
メシオチ: 突き進め!
ケーカル: ドアを泣かせ!
メシオチ: お前の性癖を見せてみろ!
ケーカル: はい! いい感じですね。それじゃあこれにて対談は終了です。お疲れ様でした~。
一同: お疲れ様でした~。
[対談も終わり、バーには最初の三人が残されている。ケーカルはバーカウンターに突っ伏して、身じろぎ一つしない]
くど: ケーカルさん、完全に伸びてますね。
メシオチ: まあ、四時間もやってましたから。そりゃ疲れるでしょう。
くど: ……それじゃあ、邪魔者はもう消えましたね。メシオチさん、決着をつけますよ。
メシオチ: いい度胸ですね。僕のリリーがリュウなんかに負けるわけないんでしょう!
[大将とメシオチは、扉を飛び出し、夜のストリートに消えていく。バーにはただ、疲れ果ててしなびた男が残されていた]